般若寺の概要
般若寺(はんにゃじ)は奈良市に境内を構える真言律宗の寺院で、東大寺大仏殿や正倉院の北方に延びる奈良坂という坂道を登った先に位置する。少なくとも奈良時代には当地に存在していたという歴史ある寺院であり、国宝指定の楼門を始め多数の貴重な文化財を有している。
なおその寺名は、聖武天皇が平城京の鬼門を守るために「大般若経」を塔の基壇に収め、卒塔婆を建てたのが起こりとされている。また現在は、非常に多くのコスモスの花が境内に咲き乱れる「コスモス寺」としても広く知られている。
般若寺の歴史
般若寺は寺伝によれば飛鳥時代の629年、高句麗の僧・慧灌により創建されたとされ、奈良時代の735年には時の聖武天皇により十三重石宝塔を始めとする伽藍が建ち、また大般若経が安置されたという(※諸説あり)。その後、平安時代にかけて千人の学僧を抱える学問寺として栄えたとされるが、平安末期の1180年、平重衡を大将とする「南都焼討」の攻撃に遭って伽藍は一時廃燼に帰した。
それから鎌倉時代に入ると、僧の叡尊や良恵らの手によって復興が進められ、今も残る十三重石宝塔などの伽藍が再建された。しかしながら、室町期の火災や戦国時代における松永久秀の戦火によって再び主要伽藍を焼失。その後も江戸時代に再興するも明治初期の廃仏毀釈によって甚大な被害を受けるなど、栄枯盛衰を繰り返したが、戦後諸堂の修理・境内の整備が行われて現在に至っている。
般若寺のコスモス
現在の般若寺はその長い歴史だけでなく、四季折々の花が咲くお寺としても知られており、中でも秋に咲くコスモスが特に有名。これは今から40年程前、荒廃状態だった般若寺の境内にて当時の住職が一輪のコスモスの花が咲くのを見つけ、それから一念発起してコスモスの研究・栽培を開始したのが始まりとされている。
そして現在においては、約15万本30種類のコスモスが境内に植えられており、満開時になれば赤・白・ピンク色をした可憐なコスモスの花々が境内全域を彩る。そのまるで花浄土のような光景からいつしか「コスモス寺」と称されるようになり、今では関西を代表するコスモス名所として非常によく知られたスポットとなっている。
般若寺のコスモス見どころ
受付を通るとすぐ眼の前に広がる華やかな般若寺のコスモス畑は、境内一面に及んでいる。その光景はどこを切り取っても絵になるが、中でも歴史ある諸堂塔と組み合わせたコスモス風景や、創意工夫を凝らしたコスモスグラスキューブの可愛らしい光景など、他のコスモス名所では中々見られない見どころが多数存在する。
本堂
境内奥にどっしりと構える般若寺の本堂は、入母屋造・本瓦葺きで外陣は吹き放しの造りとなっている般若寺の中心的堂宇。現在の建物は戦国時代に旧金堂が焼失した後、江戸時代に入り1667年に再建されたもの。
その古様な形式を残す外観とは対照的に、本堂の前いっぱいに広がるコスモス畑の華やかさとのコントラストは、古寺名刹である般若寺ならではの景色と言えるだろう。なお本堂は境内のどこからでも見渡すことができるが、個人的に出入口右の塀際から本堂を真正面に向いた際の光景がオススメ。
十三重石宝塔
本堂から見て南正面に建つ十三重石宝塔は、高さ12.6mに達する般若寺境内でも一際目を引く建物で、重要文化財指定。寺伝では聖武天皇による創建と伝えられているが、現在の塔は南宋より来日した石工・伊行末(いぎょうまつ)により1253年に建立されたもの。なお戦後の解体修理にて、塔内より金銅製阿弥陀如来立像をはじめとした多数の宝物が発見されている。
この十三重石宝塔はコスモス畑のちょうど中央に位置しているため、咲き乱れるコスモスと塔を重ね合わせた景観がまた素晴らしい。ローアングルから撮影すれば、天に向かってすっくと伸びるコスモスと塔のダイナミックな光景を切り取ることもできる。
コスモスグラスキューブ
近年の般若寺において最も注目を集める見どころと言えば、2021年より展示が始まったコスモスグラスキューブだろう。これは水を張った四角いガラス鉢に色とりどりのアクリルストーンやビー玉を沈め、さらに境内で摘んだコスモスの花を浮かべたもので、コスモスシーズンになると約50個のキューブが本堂前に設置される。
秋晴れの日、太陽の日射しを浴びてキラキラと輝くグラスキューブはまるで宝石のような美しさを誇り、その余りに色鮮やかで華やかな光景は格好のインスタ映えスポットとして、女性を中心にSNS上で大きな話題を呼んでいる。グラスキューブはそれぞれの装飾や配色、配列にも工夫がなされているので、様々なアングルから眺めてみることで写真撮影も捗ることだろう。
コスモス見頃時期・拝観時間・拝観料
【コスモス見頃時期】例年10月中旬〜下旬頃
※その年の気候状況により時期は前後します
※6月頃にも早咲きの初夏コスモスが咲き境内を彩る。同時期にはちょうどアジサイが見頃を迎えている可能性もある
【拝観時間】9:00〜17:00(最終受付16:30)
【花期特別拝観料金】大人700円、中・高生300円、小学生200円
※10月1日〜11月10日(ただし、花の開花状況により日程が変更する可能性がある)
※通常期拝観料金は大人500円、中・高生200円、小学生100円
コスモスピーク時の混雑状況
桜や紅葉スポットでは混雑状況が心配されるが、コスモスに関しては桜や紅葉ほどは注目されないため、基本的に特に混雑することはない。しかしながら、般若寺に関してはさすが関西随一のコスモス名所だけあって、見頃期間中は多くの参拝客が訪れる。
中でも特に混雑するのはコスモスグラスキューブが設置される本堂前周辺で、ここで多くの人が写真撮影に興じるため、もしストレスなく撮影を行いたいのであれば開門直後や平日に訪問した方が良いだろう。しかしながら、コスモス自体は境内の全域で見ることができ、また参拝順路も決まっていないため、全体的な混雑度合いに関してはそこまで憂慮する必要はない。
般若寺へのアクセス
①JR「奈良駅」よりバスのりば⑪「青山住宅行・州見台八丁目行」に乗車し「般若寺」バス停下車徒歩約3分
②近鉄奈良線「近鉄奈良駅」よりバスのりば②「青山住宅行」orのりば㉑「州見台八丁目行」に乗車し「般若寺」バス停下車徒歩約3分
般若寺周辺のコスモス名所
般若寺がある奈良県はコスモスの名所が豊富な地域で、中でも般若寺と並び関西を代表するコスモス名所と評されているのが斑鳩町にある法起寺。境内南側にかけてコスモス畑が広がっており、後方にそびえ立つ現存最古の三重塔と併せた光景がその最大のハイライト。ほか、橿原市にある藤原宮跡では、広大な敷地に約300万本のコスモスが咲くという壮大なスケールのコスモス風景を見ることができる。
般若寺 その他の季節
般若寺はコスモスシーズンだけでなく梅雨のアジサイの季節にも注目を集める。6月頃になると境内の所々で可憐な花を咲かせたアジサイが見られるが、近年はアジサイを丸いガラスの器に詰め込んだアジサイガラスボールも設置されるようになり、これがSNS上で大きな話題となっている。また、同時期には早咲きの初夏コスモスも花を咲かせるので、6月はアジサイとコスモスをダブルで楽しむことができる時期でもある。