北野天満宮の概要
京都市上京区にある北野天満宮は、全国に約1万2千ある天満宮・天満社の総本社。学問の神様で知られる菅原道真を御祭神として祀っており、学業成就のご利益があるとして受験生をはじめ多くの参拝客が訪れている。
境内には国宝に指定されている御本殿や北野天神縁起絵巻をはじめとした多数の文化財が保存されており、また梅や紅葉の名所でもある。京都を代表する神社の一つとして観光客からの人気も高い。
北野天満宮の歴史
北野天満宮創建の経緯は御祭神である菅原道真の生涯と深い関わりがある。菅原道真と言えば最終的に右大臣にまで上り詰めた平安時代有数の政治家であったが、晩年は藤原時平の政略により福岡の太宰府に左遷され、失意のうちに生涯を終えた。
道真の没後、京都では道真の左遷に関わった人々の突然死や作物の不作、疫病の流行などが相次ぎ、朝廷は大混乱に陥った。当時、これら一連の騒動は道真の怨念による祟りであると恐れられ、その魂を鎮めるべく947年に建てられたのが北野天満宮であった。(道真が「天神様」とも称されるのは、一連の災いの一つである「清涼殿落雷事件(宮廷に雷が落ち多数の死者が出た)」が天からの道真の怨霊によるものと考えられたことに起因する。)
その後、北野天満宮は藤原氏による大規模な社殿造営が行われ、また皇室からも代々御崇敬を受けるなど、京の都を守護する重要な神社として崇められた。時が経ち豊臣秀吉の時代には大規模な茶会が境内にて催され、また子の秀頼は現在も国宝として残る御本殿を造営した。
北野天満宮の梅
北野天満宮と言えば京都を代表する梅の名所としても非常に有名。これは御祭神である菅原道真が生前梅の花をこよなく愛していたことに由来し、見頃時期になると約50種、およそ1500本の梅が境内に花を咲かせる。
梅の花は梅苑「花の庭」を筆頭に御本殿前やその周辺など境内の至る所で見ることができ、後述するように見どころがとにかく数多い。(梅の名所と言っても境内のごく一部でしか見られない神社仏閣も多い中、北野天満宮ほどの規模の大きさはかなり珍しいと言える。)期間中は当然のことながら非常に多くの参拝客が訪れ、北野天満宮が一年を通して最も華やかになる季節となっている。
北野天満宮の梅見どころ
御本殿と飛梅
北野天満宮最大の見どころと言えば境内の中心に位置する御本殿。その造りは御殿と拝殿が石の間という石畳の廊下で繋がることで一体化した独特な構造を取っている(この造りは八棟造り又は権現造りと称される)。現在の建物は豊臣秀吉の後継者である豊臣秀頼が1607年に造営したもの。その華やかで精緻な装飾や彫刻は桃山建築の豪華絢爛さを今に伝える非常に貴重な建築物として、国宝に指定されている。
この御本殿の目の前には大きな紅梅の木が植えられており、見頃になると可憐な濃いピンク色の花が咲いて豪華絢爛な建物に彩りを添える。その種はいわゆる「飛梅(とびうめ)」であり、創建以来代々受け継がれてきた特別な梅とされている。約1500本もある北野天満宮の梅の中でも最も注目を集める梅の木となっている。
三光門
三光門は御本殿の前に建つ中門に当たる門で、重要文化財指定。大きさは小ぶりだがその造りは一際壮麗で、上部には後西天皇御宸筆の『天満宮』の勅額が掲げられている。この三光門の両脇には多種多様な梅の木が植えられており、紅・白・ピンクと様々な色の花が咲き誇った光景は壮麗な三光門をさらに美しく引き立てる。
楼門
三光門と参道の間にそびえ立つのは2階建ての巨大な楼門。上部に掲げられた額には『文道大祖 風月本主(ぶんどうのたいそ ふうげつのほんしゅ)』の文言が刻まれており、これは平安中期の学者・大江匡衡等が菅原道真を褒め称えた言葉であるとされる。
この楼門の参道側付近には梅の木は植えられていないが、とにかく大きいので梅宛「花の庭」からでもその姿を垣間見ることができる(上画像)。ここからなら咲き乱れる梅の花と楼門、そして『文道大祖 風月本主』の額を併せて撮影することが可能。
手水舎
楼門を抜けたすぐ先に設置されている手水舎では、近年神社仏閣で流行りの花手水のアレンジが施されている。梅のシーズン中は色とりどりの花々と共にピンク色の梅の生花も加わって、非常に華やかな光景が広がっていた。神聖な境内にあってとても可愛らしい見どころとなっている。
宝物殿
手水舎の奥には宝物殿、神楽殿、社務所といった建物が建ち並んでいる。このうち宝物殿は国宝・北野天神縁起絵巻をはじめとした数万点に及ぶ宝物が収蔵・公開されている建物で、通常は毎月25日のみの開館だが観梅シーズン中は毎日開館されている。そしてこの宝物殿の周辺にも多くの紅梅や白梅の花を見ることができる。
絵馬掛所
絵馬掛所は境内北西角に位置し、文字どおり学問成就等の願いが込められた絵馬が掛けられている場所。入口に整然と立ち並ぶ鳥居が印象的なスポットだが、梅が見頃になるとすぐ側に咲く白梅が朱塗りの鳥居と絶妙にマッチして、より印象的な光景が広がる。
船出の庭
これより先は有料エリアとなる。絵馬所前にて入宛料を支払ってすぐのところにある船出の庭は、令和9年斎行予定の「千百二十五年 半萬灯祭」に向けた一環として整備された庭園。菅原道真の邸宅に実際にあった庭園を北野天神縁起絵巻等を参考にして再興したものとされており、緩やかに蛇行して流れる小川や木橋などが平安時代を想起させる雅やかな雰囲気を醸し出している。
そしてこの船出の庭一帯でも多くの梅の木が植えられており、見頃時期になれば咲き誇った梅の花々が雅やかな庭園をより華やかな空間に演出する。また庭園内には摂末社もいくつか見られ、ささやかな社に梅の花が彩りを添えた光景も見事。
紅梅殿
船出の庭の一角に建つ紅梅殿は、平安時代に菅原道真が住んでちた邸宅の名に由来している。現在は祈祷や神前結婚式などに使用されており、また春秋に行われる行事・曲水の宴もこの紅梅殿前の船出の庭を中心に行われる。周囲にはその名のとおり多くの梅の花が見られる。
史跡御土居
御土居とは豊臣秀吉が京都の街の治水対策の一環として築き上げた土塁のことで、今も一部が境内西側に流れる紙屋川沿いに史跡として保存されている。現在、御土居周辺は南北に細長く延びる散策道として整備されており、一帯には約350本ものモミジの木が植えられている。
ただし、梅のシーズン中はモミジはまだ葉をつけていないため、一帯には物寂しい雰囲気が漂う。とはいえ少ないながらも、ここでもいくつかの梅の花を目にすることができる。またこの時期の御土居は人がほとんどいないため、喧騒から離れて散策するにはちょうど良い場所となっている。
梅宛「花の庭」
梅の名所・北野天満宮において最も梅の花が咲き誇る場所が梅苑で、境内南西部に広がっている。この梅苑は2022年に新たに整備されており、かつて北野天満宮境内に実在したとされる洛中の名庭「花の庭」として改めて公開された。
花の庭を当初作庭したのは江戸時代初期の歌人・松永貞徳で、貞徳は他にも清水寺成就院にある「月の庭」、妙満寺にある「雪の庭」を作庭している。これらは合わせて「雪月花の三庭苑」と呼ばれ名を馳せていたが、北野天満宮の花の庭は明治以降消失してしまい、三庭苑の中で唯一現存していなかった。令和になって新たに復興した花の庭では、梅の花に囲まれながら日本の伝統的美意識を体感できるようになっている。
そんな梅苑では2022年より新たに展望台も設置されており、色とりどりの梅の花が咲き乱れる様子を上から一望できるようになっている。その光景はまさしく圧巻の一言で、御本殿前の飛梅と共に北野天満宮の梅における最大のハイライトの一つとなっている。
猿回し
梅苑「花の庭」の出口付近にはお茶とお菓子を頂き休憩することができる茶屋も開放されている。そしてその茶屋の目の前では猿回し等の催し物が定期的に開催されており、一休みする人々の目を楽しませてくれる。満開の梅の花をバックに日本の伝統芸能を鑑賞するのは何とも至福のひとときで、この上なく風流な光景を目にすることができる。
梅宛公開期間と梅見頃時期
【梅苑公開期間】例年2月上旬〜3月下旬頃
※具体的な日程は毎年変わるので北野天満宮のホームページを確認してください
※梅の開花状況によって予定よりも早く開苑又は閉苑されることがあります
【梅見頃時期】例年2月下旬〜3月中旬頃
※その年の気候状況により時期は前後します
※梅の花は品種により早咲きから遅咲きまで開花時期が幅広いので、上記期間以外でも観梅は楽しめます
※御本殿前の飛梅や境内北側の梅は比較的遅咲きなので、個人的には少し遅めに訪れるのがいいかと思います
梅宛の入宛時間と入宛料
【入苑時間】9時~16時(受付終了15時40分)
【入苑料】大人(中学生以上)1200円、小人(小学生以下)600円
※お茶・お菓子付き ※北野天満宮自体は入場無料
梅ピーク時の混雑状況
京都の桜や紅葉スポットでは混雑状況が心配されるが、梅に関しては桜や紅葉ほど注目されないため、基本的に特に混雑することはない。北野天満宮について言えば京都を代表する梅スポットのため参拝客は非常に多く集まるが、境内が広くまたその全域に梅の花が見られるため、結果的に参拝客が分散することでそこまで混雑することはない。
注意すべきはどちらかと言うと行き帰りのアクセス。北野天満宮は主要鉄道駅から離れているため、多くの人がバスで向かう。そのため北野天満宮行きのバスや北野天満宮前のバス停にて度々大混雑が発生する。混雑を避けるためには最寄り鉄道路線である嵐電を利用するといい。
北野天満宮へのアクセス
①JR「京都駅」より市バス(50系統)に乗車し「北野天満宮前」バス停下車徒歩約1分
②JR山陰本線or地下鉄東西線「二条駅」より市バス(55系統)に乗車し「北野天満宮前」バス停下車徒歩約1分
③JR山陰本線「円町駅」より市バス(203系統)に乗車し「北野天満宮前」バス停下車徒歩約1分
④阪急京都本線「西院駅」より市バス(203系統)に乗車し「北野天満宮前」バス停下車徒歩約1分
⑤阪急京都本線「大宮駅」より市バス(55系統)に乗車し「北野天満宮前」バス停下車徒歩約1分
⑥京阪本線「三条駅」より市バス(10系統)に乗車し「北野天満宮前」バス停下車徒歩約1分
⑦京阪本線「出町柳駅」より市バス(203系統)に乗車し「北野天満宮前」バス停下車徒歩約1分
⑧地下鉄烏丸線「今出川駅」より市バス(51・203系統)に乗車し「北野天満宮前」バス停下車徒歩約1分
⑨嵐電京福北野線「北野白梅町駅」より徒歩約5分
北野天満宮周辺の梅名所
京都で他に有名な梅名所と言えば伏見区にある城南宮。北野天満宮と肩を並べる京都の超人気梅スポットで、枝垂れ梅と落ち椿の絶景が見られる。見頃は北野天満宮より少し遅れて迎え、バスや地下鉄を利用し1時間ほどでたどり着ける。
ほか京都市内の梅名所と言えば、北野天満宮と同じ洛中には京都御苑や二条城、洛西方面は梅宮大社や大覚寺、天龍寺、洛東方面は下鴨神社や平安神宮、清水寺、洛南方面は東寺(上画像)などがある。
北野天満宮 その他の季節
梅苑が閉苑して1ヶ月程が経つと、今度は史跡御土居の青もみじ(上画像)が見頃を迎え「もみじ宛」として公開される。梅のシーズン中は物寂しい雰囲気であった御土居だが、新緑が芽吹く頃になると辺り一面が瑞々しい緑に包まれ、こちらも絶景が広がる。(2023年からは夜間ライトアップも行われるようになった。)
また史跡御土居は紅葉の名所としても非常に有名で、秋の見頃時期になると再び「もみじ宛」として公開される。なお紅葉時期に関しても夜間ライトアップ(上画像)が毎年行われているので、日中とはまた違った幻想的な空間を味わうことができる。