大阪 天王寺七坂の桜

大阪の名所

天王寺七坂の概要

 天王寺七坂は大阪市天王寺区に位置し、大阪市を南北に走る丘陵地・上町台地の西側斜面に延びる7つの坂の総称。(北から真言坂、源聖寺坂、口縄坂、愛染坂、清水坂、天神坂、逢坂)いずれの坂も傾斜がかなり急で、上町台地の西麓・難波方面に向かって続いている。

天王寺七坂 口縄坂の桜

 本来の天王寺七坂は周辺住民に密着した生活道路であるが、石畳で出来た風情あるその道のりは織田作之助や司馬遼太郎、田辺聖子といった大阪出身の作家から高く評価され、度々作品の舞台にもなっている。また近年は大阪の歴史や地形等を体感できる散策路としても注目を集めている。

天王寺七坂の歴史

天王寺七坂 源聖寺坂の桜

 天王寺七坂は大阪という街の成り立ちを語る上で非常に重要な場所でもある。大阪は現在も海抜ゼロメートルの地点が非常に多い都市であるが、古代においては海岸線が生駒山麓まで深く入り込み、そのほとんどが海の底に沈んでいた。

 そのような大阪において古代から陸地として存在していたのが上町台地で、当時は周囲が海で囲まれていたため北に向かって細長く突き出る半島のような形状をしていた。その後、古墳時代以降の治水事業によって周囲は徐々に陸地が形成され、半島は丘陵地=上町台地へと変貌していった。そして台地の崖線も坂道に整備され、そのうちの西側斜面の一部が現在の天王寺七坂となっている。

天王寺七坂 清水寺の桜

 そのような経緯から上町台地は非常に歴史の古い神社仏閣が点在している場所であり、聖徳太子が創建したと伝わる日本最古の官寺・四天王寺や約1800年の歴史を誇る住吉神社の総本社・住吉大社などがこの台地上に境内を構えている。さらに天王寺七坂の周辺は日本有数の寺院の密集地帯でもあり、これは豊臣秀吉が大坂城を築くに当たって、城の弱点である南側に寺を集中させることで戦時の防壁代わりにしようとしたためだと言われている。

 ただし、大阪の寺といえば戦国時代にかけて一大宗教勢力を誇った大寺院・石山本願寺の攻略に織田信長が非常に手こずったことから、秀吉はあくまで小規模な寺院しか集めなかった。(そのため、京都のように観光名所として有名なお寺が多く存在するわけではない。)とはいえ、一帯には寺町が醸し出す独特な雰囲気が色濃く漂っており、これが天王寺七坂の風情ある景観に繋がっている。

天王寺七坂の桜

 普段から風情ある景色が広がる天王寺七坂であるが、実は天王寺七坂はその全ての坂において桜が見られる”桜坂”でもある。石畳が続く道のりに桜の花が彩りを添えた風景はいつも以上に情緒に溢れ、大阪における穴場の桜スポットとなっている。(個人的にはもっと注目されてもいいと思うのだが…)

天王寺七坂 口縄坂の桜

 なお、天王寺七坂の桜は街路樹ではなくいずれも近隣の神社仏閣の境内に植えられている桜を外から眺めるという構図となっている。すなわち、天王寺七坂で桜が見られるのは上述した上町台地の長い長い歴史によって周辺に神社仏閣が集中した結果であり、大阪で最も深い歴史を持つ上町台地ならではの景観であるとも言える。

天王寺七坂の桜見どころ

真言坂

天王寺七坂 真言坂の桜

 真言坂は天王寺七坂の中で最も北側に位置し、唯一南北に延びる坂。千日前通りから南へ向かってまっすぐに登っていくと生國魂神社(いくくにたまじんじゃ)の北門に当たる冠木門にたどり着き、この朱塗りの門前に二本の桜が咲き誇る様子が見られる。

天王寺七坂 生國玉神社の桜

 また冠木門の先に広がる生國魂神社(上画像)の境内にも多数の桜が見られるので、ぜひ併せて参拝したい。生國魂神社は大阪最古と伝えられる非常に由緒ある神社なので、神社仏閣巡りの一環としても十分に訪れる価値がある。

源聖寺坂

天王寺七坂 源聖寺坂の桜

 源聖寺坂(げんしょうじざか)は坂下にある同名の寺・源聖寺からその名が付いた。松屋町筋から東へ向かってうねるようにカーブが続くその光景は天王寺七坂の中でも非常に特徴的で、足元の石畳の階段と合わさってとても情緒に溢れる道のりが続いている。

天王寺七坂 源聖寺坂の桜

 この源聖寺坂の両側には源聖寺と金薹寺という二つの寺が境内を構えており、見頃になると塀を飛び越えて咲く両者の桜によって素晴らしい桜坂の景色が構成される。その独特な形状と風情ある雰囲気、また桜が両側に咲くというロケーションから、個人的には七坂の中で最も印象深い。

天王寺七坂 齢延寺の桜

 また源聖寺坂を上った先は上町台地の中でも最も寺院が密集している地域であり、その中でも源聖寺坂を上ってすぐのところにある齢延寺は江戸時代から桜の名所と呼ばれていたお寺。今でも境内には素晴らしい咲き具合の桜を見ることができるので、ぜひ源聖寺坂と併せて参拝されることをオススメする。

口縄坂

天王寺七坂 口縄坂の桜

 天王寺七坂の中でも最も代表格とされるのが、北から三番目に位置する口縄坂。松屋町筋から登り始めると初めは緩やかな上りだが、途中から急激に傾斜が険しくなり足元も石造りの階段となる。また道幅が狭く見通しも悪いが、それがかえって古風な雰囲気を色濃く感じられる空間となっている。

天王寺七坂 口縄坂の桜

 この口縄坂の北隣に境内を構えている珊瑚寺という寺院の桜が、春になると塀から溢れて坂道を覆わんばかりに咲き乱れる。石段と桜が織り成すその風景は絵画のように美しく、源聖寺坂と共に天王寺七坂でも必見の場所と言える。なお珊瑚寺の桜はソメイヨシノと紅枝垂れ桜の2種類が咲き、紅枝垂れ桜の方が若干遅く開花する。

愛染坂

天王寺七坂 愛染坂の桜

 愛染坂(あいぜんざか)は北に大江神社、南に大阪星光学院の間に挟まれ延びており、七坂の中でも特に勾配が急な坂(平均斜度8%)。足元には滑り止めの舗装が施されている程で、歩いているとこの場所が本来台地の斜面であることを想起させられる。

天王寺七坂 愛染坂の桜

 この急坂の道沿いからは星光学院の校舎内に植えられている桜を望むこともできるが、最も印象的なのは坂道を登り切った先に立つ一本のソメイヨシノ。右手には大江神社の鳥居、左手には急激な下り坂のため先が見えない愛染坂の間に立つそのコントラストな光景は、まるでアニメの世界に出てくるかのような印象深い眺めとなっている。(実際、愛染坂はアニメ映画『ジョゼと虎と魚たち』のワンシーンのモデルにもなっている。)

天王寺七坂 愛染堂の桜

 また大江神社の隣には”愛染坂”という坂の名の由来となった愛染堂が境内を構えているので、忘れずに参拝したい。愛染堂は大阪市内最古の木造建築物とされる多宝塔があることで知られているが、春の季節には薬医門をくぐった先に咲き誇る桜と金堂の景色を見ることもできる。

清水坂

天王寺七坂 清水坂の桜

 ゆったりとした段差の石段が整然と続く清水坂は、電柱もなく七坂の中で最も整備が行き届いている印象がある。南隣に境内が広がる清水寺からその名がついた。

天王寺七坂 清水の舞台

 この清水寺は京都にある同名の有名な寺院とは当然別物だが、境内には何と清水の舞台が設置されており、また玉手の滝という大阪市内唯一の天然の滝まで存在する。こちらの清水の舞台は市街地の開発が進んだことによりそれ程眺望は良くないが、それでも大阪のシンボル・通天閣を今も視界に収めることができる。

天王寺七坂 清水坂の桜

 また清水寺の境内には坂沿いにかけて4本の枝垂れ桜が植えられており、急坂を行き来する人々の目を楽しませてくれる。これらの桜はまだ若木のようなので、今後より素晴らしい桜に成長することが期待される。

天神坂

天王寺七坂 天神坂の桜

 天神坂は愛染坂と同じぐらい厳しい傾斜が続く石畳の坂。坂下にある安居神社へ通じる道であることからその名が来ており、道中は坂下に広がる同神社の境内や向かいにある公園にて桜が咲く様子が見られる。

天王寺七坂 安居神社の桜

 なお、安居神社は大坂夏の陣にて真田信繁(幸村)が討死した場所として非常によく知られている。現在の境内はこぢんまりとしており桜もそれ程咲いているわけではないが、幸村の記念碑や銅像が建っているので歴史に興味がある人はぜひ訪れたいスポット。

逢坂

天王寺七坂 逢坂の桜

 ここまでは路地裏のような細道の急坂ばかりを見てきたが、最後に紹介する逢坂(おうさか)は唯一、国道25号という幹線道路の一部となっておりまた傾斜も比較的緩やかである(かつては道幅が狭く勾配も急であった)。正直、他の坂のように風情があるとは言えないが、見通しがいいので坂下にそびえ立つ通天閣をよく見渡せる。

天王寺七坂 一心寺の桜

 この逢坂の中腹には一心寺という規模の大きな寺院が境内を構えており、その山門前で大きく咲き誇る桜の光景を見ることができる。なお一心寺は大坂冬の陣にて徳川家康が陣を張った場所であり、こちらもまた深い歴史を持つお寺となっている。

天王寺七坂 一心寺の桜とあべのハルカス

 一心寺は境内の中でも多数の桜が見られるが、個人的に最も印象的なのは参道のスロープ下から上を見上げた際の景色。後方には元日本一高いビル・あべのハルカスがそびえ立っており、山門前の桜と重ね合わせて撮影することが可能。再開発著しい天王寺ならではの都会的な風景が見られるのもまた、天王寺七坂の魅力の一つと言えるだろう。

桜見頃時期・営業時間・料金

天王寺七坂 源聖寺坂の桜

【桜見頃時期】例年3月下旬〜4月上旬
※その年の気候状況により時期は前後します

【営業時間】散策自由
※近隣の神社仏閣によっては開門時間が存在するので、だいたい9~16時の間に訪れるとよい

【料金】無料(今回取り上げた神社仏閣を含む)

【所要時間】
 天王寺七坂の桜は一つ一つの規模は小さいが、周辺の神社仏閣を含め隈なく回るとなると相当なボリュームとなるので、だいたい3時間ぐらいの所要時間は見込んでおいた方がいい。また道中は険しい坂道を何度も上り下りすることになるので、ある程度の体力や足腰も必要。

天王寺七坂へのアクセス

いずれも大阪メトロ谷町線or千日前線「谷町九丁目駅」又は谷町線「四天王寺前夕陽ヶ丘駅」より徒歩約10分圏内

天王寺七坂周辺の桜名所

 ここまでは七坂だけでなく近隣の神社仏閣も含めて多数のスポットを取り上げてきたが、天王寺七坂の周辺にはそれ以外にも多くの桜名所が存在する。中でも有名なのは愛染坂〜逢坂間の東側に位置する四天王寺で、聖徳太子が建立した日本最古の官寺という非常に古い歴史を持つ。またその広い境内には多数の桜が見られる。

 他、逢坂の南側に広がる天王寺公園では桜と通天閣と夕焼けを同時に望むことができる大阪随一の桜の穴場スポット。さらに真言坂の北東に境内を構える高津宮では境内全域に桜景色が広がり、こちらも知る人ぞ知る大阪の桜名所となっている。

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