中国 拙政園(The Humble Administrator’s Garden, China)

拙政園 中国の名所

拙政園の概要

 拙政園中国・蘇州(Suzhou)にある明代に建造された広大な中国庭園。その面積は5ha以上に及び、多くの庭園が所在する蘇州の街においても最大の庭園かつ最も代表的な庭園として広く知られている。

拙政園

 拙政園は敷地の約60%が池で占められているとされ、そのとおり園内には自然や水がふんだんに取り入れられた光景を数多く見ることができる。その優雅でのびのびとした雰囲気は明代庭園の典型例とも評されており、また中国四大名園の一つにも数えられている。

拙政園

 加えて1997年には「蘇州古典園林」の一つとして世界遺産にも登録された。現代においては蘇州を最も代表する観光名所の一つとして、非常に多くの観光客が訪れる場所となっている。

拙政園の歴史

拙政園

 拙政園は明の時代半ばの1510年頃、役人のキャリアを引退した王献臣という人物が故郷である蘇州の地に戻り、隠遁生活を送るために寺院跡地であった当地に庭園を造立したのが始まりとされている。なお王献臣は波乱に満ちた役人生活を送っていたとされ、当時の官界に対して強い不満を持っていたことから「拙い政治」という意味で「拙政園」という名が付けられたという。 

拙政園

 それから17世紀に入ると、拙政園は東園・中園・西園の三つのエリアに分割して複数の所有者の手に渡り、エリア別にそれぞれ整備が進められていった。しかしながら、拙政園はそのような過程を経たことでエリアによって趣の異なる庭園に仕上がったと言われている。その後、最終的には中国政府が三つのエリアを統合し、現在のよう形で一般向けに開放された。

拙政園の見どころ

 上でも少し触れたように、広大な面積を誇る拙政園は東園・中園・西園という三つのエリアに大別される。そのうち最もメインとなるエリアは中園とされており、最大のハイライトである報恩寺の北塔を借景とした光景など、拙政園ならではの魅力の多くがこのエリアに詰まっている。そのため、時間がない場合等は中園を重点的に回るとよい

東園

拙政園 東園

 拙政園に入場するとまず初めに足を踏み入れることになるのが東園。このエリアは中園と西園を併せた面積よりも広いという広大な敷地を誇っており、また自然も豊富で庭園というより大型の公園といった雰囲気が漂う。

拙政園 芙蓉榭

 園内には非常に大きな池が広がっており、東園はこの池の周囲を回るようにして散策していくことになる。また幾つかのあずま屋も点在しており、上画像は拙政園に入ってまず初めに目にすることになるであろう芙蓉榭というあずま屋。これは建物の半分が水上に建てられており、その開放的な内部から東園の広大な池を眺めることができる。

拙政園 天泉亭

 さらに奥へと進んで行けば、二階建ての大きなあずま屋である天泉亭(上画像)も見えてくる。(ちなみに「天」とは中国語で「天国」の意。)それにしても東園は広く、隈なく回ろうとすると中園に辿り着く前に疲れてしまう可能性もあるので、サラッと見て回るのが良いだろう。

中園

拙政園 中園

 中園はその名のとおり東園と西園の中間に位置するエリアで、上述したとおり広大な拙政園における主要エリア。これは拙政園の造営にあたってまず始めに着手されたのが中園であり、東園と西園はそれを拡張する形で整備されていったという歴史に由来している。

拙政園 遠香堂

 中園のその魅力と言えば堂やあずま屋、橋といった建築物が拙政園の中でも最も多く建っており、またそれらが雄大な自然の中に溶け込むようにして点在しているという点にある。中でも拙政園において最も代表的な建物とされるのが、中園南に位置する遠香堂(上画像)。

拙政園 遠香堂 内部

 拙政園の入口は元々は遠香堂の南側にあったとされ、すなわち建設当初の遠香堂は客人を最初に案内する、拙政園の起点となる建物だった。また壁面はガラス張りとなっており、今でも内部には歴史を感じさせる中国家具や調度品の数々が展示されている。

拙政園 北寺塔の借景

 続いて遠香堂の北側の方へ目を向けると、そこには広大な池が東西に延びるようにして広がっている。周囲には多くの木々が織り成す美しい自然の風景も見られるが、このとき池の東端(東半亭付近)に立って西方を望むと、木々の隙間からは報恩寺の北寺塔がそびえ立つ姿が視界に入る。この「庭の外にあるものを庭の景色の中に溶け込ませる技法」のことを「借景」といい、拙政園のそれは上画像のような非常に壮観な眺めとなっている。

 拙政園の造園者である王献臣は、この北寺塔を借景として利用するため中園内に池を引くことで木々が塔を覆い隠すことがないようにしたという。この素晴らしい景観は拙政園が完成してから500年以上が経った今でも訪れた多くの人々を感動させており、拙政園最大のハイライトとして宣材写真にもよく利用されている。

拙政園 梧竹幽居

 北寺塔の借景を見た後は、多くの人が池に浮かぶ小島を渡って池の西側の方へと向かうだろう。この時、北寺塔の借景が見える地点から少し北へ進むと、中国式回廊が延びる途上に梧竹幽居というあずま屋が現れる(上画像の開口部が丸く開いた建物)。こちらもまた周辺の池や自然との調和が美しい。

拙政園 待霜亭

 橋を渡って小島の内部へ。なお中園に浮かぶ小島は二つに分かれており、上画像はそのうちの一つ目の島の様子。右手の小高い丘の上には待霜亭というあずま屋が建っている。

拙政園 香洲

 橋を渡り次いで池の外側へと出ると、中園の西~南側にかけては遠香堂をはじめとした比較的大きな建物が建ち並んでいる。そのうち中園の南西部に位置する香洲(上画像左)は池に面して建っており、これは屋台船をイメージして造られたという。

小飛虹

 最後に香洲から遠香堂の方へ戻ろうとすると、その道中小さな橋が小川に掛かっている。この珍しい屋根付きの橋小飛虹と言い、緩やかに付けられた傾斜や川面に反射した風景もまた非常に印象的。その美しい眺めから、拙政園の中でも特に人気のあるスポットとして注目を集めている。

西園

拙政園 西園

 拙政園の中でも最も奥に広がっている西園は、他のエリアと比べて面積は狭いものの、中園と同じくあずま屋や回廊等の建築物が多く建っており、またその内の一部は中園と同時期に整備が進められたという。そのためここでも、拙政園らしい自然に人工物が調和した光景をよく目にすることができる。

拙政園 浮翠閣

 西園の池は南北に延びるような形で広がっており、その北側の方にあずま屋が多く点在している。中でも上画像左手に見える浮翠閣は八角形二階建ての瀟洒なデザインの建物。その名のとおり小高い丘の上に建ち、緑の中に浮かぶように見えることから名付けられたという。

拙政園 塔影亭

 しかしながら西園において最も印象的な人工物と言えば、池の周囲を沿うようにして延びるこちらの回廊だろう。この回廊は上下左右にクネクネとしていることから波状回廊とも呼ばれ、その揺れる波のような構造は設計者の繊細さを強く感じさせられる。

拙政園 鴛鴦館

 回廊に沿って西園の南側へと進んで行き、途中折り返して少し北の方へ行くと、その先に鴛鴦館(えんおうかん)という大きな建物が見えてくる。こちらが西園におけるメインとなる建物で、上画像のとおり建物が一部池の上にかかって建てられている。これは元々は宴会等に使われていたらしく、今でも内部には多くの調度品が展示されている。

拙政園の開放時間と入場料

【開放時間】
・3~10月 7:30~17:30(17:00入場停止)
・11~2月 7:30~17:00(16:30入場停止)

【入場料】
・ハイシーズン(4~5月、7~10月):90元(1元=20円として約1,800円)
・オフシーズン(1~3月、6月、11~12月):70元(1元=20円として約1,400円)

※入場券は現地では販売されておらず、インターネットから時間指定入場券を購入する必要がある。販売サイトは現地にて掲載されているQRコードからアクセス可能。ただし、購入の際はパスポート番号や中国国内の電話番号を要求され、また支払手段もWechatpayなどの中国の電子マネー決済に限られている。中でも問題となるのは中国国内の電話番号。当然のことながら外国人旅行者はそのような番号など所持していないので、このままだと入場券を購入することができない。しかしながら、検索エンジンで「中国 電話番号 取得」などと検索すれば、一時的に中国国内の電話番号を取得できる方法が見つかるので、一応個人でも購入が可能ではある。(とは言え、面倒くさいかつ初見の人は間違いなく戸惑うと思うので、くれぐれも注意されたい…。)

拙政園の混雑状況

拙政園

 拙政園は蘇州観光における最大の目玉の一つであり、また上海を含む周辺地域一帯においても屈指の観光名所であることから、毎日非常に多くの観光客が訪れる。加えて園内は道幅が狭い通り道が多く、広々としている東園を除けば基本的には混雑しているので、正直言ってあまり風情があるスポットとは言えない。また拙政園は入場者の人数制限を行っており、中国国内における連休中などは入場券が既に完売している可能性もあることから、そもそも入場が可能かどうか事前に確認しておいた方が良い

拙政園へのアクセス

①蘇州地下鉄4号線「北寺塔駅」下車徒歩約15分
②路線バス(游1、游2、游5、202)より「蘇州博物館(拙政園/獅子林)」バス停下車徒歩約5分

拙政園周辺の名所

 拙政園が所在する蘇州は他にも歴史ある庭園を数多く抱えている街で、中でも注目したいのは拙政園と共に「蘇州古典園林」として世界遺産に登録されている庭園群。そのうちの留園は拙政園と同じく中国四大名園の一つに数えられている名園で、他にも蘇州四大名園に挙げられる滄浪亭や獅子林も蘇州を代表する庭園としてよく知られている。

山塘街 新民橋

 また中園から望むことができた北塔がそびえ立つ報恩寺も、拙政園から徒歩圏内の距離にあるのでぜひ併せて訪れたい。加えて蘇州は水路が張り巡らされた水郷の街でもあり、中でも代表的なエリアである山塘街(上画像)も見逃せないスポット。

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